他に3人もいる候補者の名前

金正恩後継は「与正」有力と断じるのは時期尚早 他に3人もいる候補者の名前
2020年6月22日 17時0分  デイリー新潮
―「平壌が、かなり混乱している証拠です。言論統制下にある国家は、噂がたちまち広がるものです。北朝鮮もそうで、特に首都の平壌は“噂の帝国”と言えます。そして6月10日に掲載された労働新聞の記事から、『後継者が決定した』との噂が取り沙汰されているわけです。しかしながら、その後継者は与正氏を指すと判断するのは、あまりに早計です。北朝鮮には他にも、トップの座を狙える実力者が、少なくとも3人はいます」(同)

 重村教授によると、1人目は金正哲[キム・ジョンチョル](38)だ。金与正の血の繋がった兄にあたる。ギターの名手として知られるエリック・クラプトン(75)の大ファンという逸話をご存知の方もおられるだろう。
 2人目は、ハンガリーブルガリアフィンランドポーランドチェコなど欧州各国の特命全権大使を述べ31年にわたって歴任した金平一[キム・ピョンイル](65)だ。

 父は金日成[キム・イルソン](1912~1994)、母は2番目の妻である金聖愛[キム・ソンエ](1924~2014)だ。金正日から見ると、金平一は異母弟にあたる。
 そして3人目は、秘密のベールに包まれた金日成の隠し子だ。金賢[キム・ヒョン]と張賢[チャン・ヒョン]という2つの名前を持つ。

金賢氏は金日成氏が晩年、看護婦に生ませたとされています。1971年生まれと言われ、一時、権勢を誇った張成沢チャン・ソンテク](1946~2013)氏と、金敬姫キム・ギョンヒ](74)の養子だったことから張賢とも呼ばれたのです。そして金敬姫は後継者を決める家族会議長の権限を持ちます」(同)

鍵を握るのは軍部の意向
 ちなみに韓国の聯合ニュースは2009年8月、金賢氏が01年ごろ、当局に処刑されていたことが分かったと報じたことがある。更に張成沢も13年に粛清された。
聯合ニュースの報道は誤報で、私は金賢氏が生きている可能性もあると見ています。もし彼が北朝鮮の実権を握れば、長期政権になるのは間違いない。それほどの“陰の実力者”だと言われています」(同)

 こうした後継候補者の元には、側近が群がり、激烈な勢力争いが展開される。何しろ敗者は粛清される可能性がある。文字通り、自分の生死を賭けた権力闘争なのだ。
「金与正氏が後継者レースで有利な点は、誰の許可も必要とせず金正恩氏と日常的に会える唯一の存在だということです。もし正恩氏の健康状態が、周囲との意思疎通さえ不可能なほど悪化していたとしても、『以前、兄はこういう考えを持っていた』、『兄ならきっとこうするはずだ』と、正恩氏の“代理人”になることができます。これは他の“候補者”が絶対にできないポイントです」(同)

 重村教授によると、金与正自身は「正恩の後継者になりたい」という強い意欲があるわけではないという。
「側近が『私たちのために立ってください』と懇願している状態ではないか」と見る。ある意味で“神輿に祭りあげられた”状態だ。
「与正氏が北朝鮮のトップとなる確率は40%くらいでしょう。ならない確率を60%としたのは、彼女の抜擢に軍が賛成することはないと見ているからです。

そもそも北朝鮮には儒教文化が残っており、女性の社会進出を喜ばない土壌があります。その上、軍の悲願は核武装で、アメリカに融和的だった金正恩氏の路線を苦々しく思っていました。次のリーダーこそは、軍の意向を尊重してくれる、それも男性が一番相応しいと考えているはずです」(同)

与正と軍部の“溝”
 冒頭でご紹介した東亜日報の記事とは異なり、重村教授は金与正が軍を掌握しているとは見ていない。
 聯合ニュース(日本語電子版)は6月13日、「金与正氏 韓国側への武力行使示唆=批判ビラ散布に反発」の記事を配信した。
 記事では、金与正が《韓国側に対する武力行使を示唆した》とし、彼女が《金委員長と党、国から付与された権限にのっとって敵対事業に関する部署に次の行動を決行するよう指示したことを明らかにした》と伝えた。

 また産経新聞(電子版)は6月16日、「北朝鮮・開城の南北連絡事務所、爆破される」の記事で、北朝鮮朝鮮人民軍総参謀部が16日、《今後、実行に向けた軍事的行動計画を作成し、党中央軍事委員会の承認を得る》と示したことを伝えた。
「金与正氏の『付与された権限にのっとって指示』したという発言と、軍の『党の中央軍事委員会の承認を得る』という返答から、軍に介入する与正氏に『あなたに指示される覚えはない』との反発が読み取れます。

珍しい表現の不一致です。依然として軍の最高司令官は金正恩氏だ、との建前論を主張している。与正氏も軍も正恩氏を立てていることが分かります。仮に与正氏が軍を掌握しているような発言をすれば、彼女と敵対を牽制する勢力から『越権行為だ』と大問題になされる恐れがあります。そのために『全権を与えられた』とは言わず『付与された権限』とあいまいな言い回しになったのでしょう」(同)

 もし金正恩の健康不安説が事実ならば、北朝鮮は2つの大きな発表を世界に向かって行う必要がある。つまり、金正恩の病状を発表し、更に後継者を広報しなければならない。
 だが、その直前まで、平壌では後継者をめぐる激しい政治的暗闘が繰り広げられるだろう。
週刊新潮WEB取材班
2020年6月22日 掲載
https://news.livedoor.com/article/detail/18456497/

 

 

正統の正閏が争われる。
意外な人物が現れる可能性もある。
このまま王朝が崩壊する可能性も低くはない。